03:捜査

■Side:レオ

「なるほど。つまり朝は何事もなく家を出たはずなのに、学校には辿り着いていなかったという事になりますね?」
「はい………」

明け方早く、レオ刑事一行は最初に行方が分からなくなった少年の家へ訪れていた。

「あの子はいつも学校をさぼる癖がありましたから。てっきり最初はいつもの事だろうと思っていたのですが、
 一昨日から戻ってこなくて……それにほかの子供たちもいなくなったと聞いたものですから…」

少年の母親は、落ち着いた様子で話していたが、表情には疲れと心配な様子が見てとれた。

「子供たちに何か、不審な点はありませんでしたか?例えば貴方のようなお子様のパターンであれば、テストが近々行われるとか」

手帳に情報を書き込みながら、医者らしく、人に安心感を与える声色で質問をするロズベルト。

「いいえ、特に…本当にいつも通り学校へ向かったので。テストも終わったばっかりだったので意気揚々と出て行ったんです」
「そうですか……」

レオは微笑みながら、踵を返し、一度考え込んだ後また振り返った。

「すみません奥さん。あと一つだけ。この事件の事を他の誰かにお話されましたか?
 例えば、この町以外の親戚であったり、もしくは報道官などに」
「確かに、周りの子供のご両親とは連絡は取りましたが、それ以外には誰にも。それが何か」
「いいえ、ありがとうございます」



■Side:クローヴェル

「じゃじゃーーん!」
『………』

昼過ぎ、一通り被害があったと言われる家族の話を聞いた後、彼らは町に一つしかないパン屋でパンを買い、
近くのベンチに腰を下ろした。すると、中央に座っていたクローヴェルが意気揚々と手帳を広げた。
そこには、【おそらく】この町の地図と被害があった家が書かれてバツ印が追加されている。
何故【おそらく】なのかといえば……

「これは……絵、なのかな?クローヴェル君」
「はい!聴き取った家の場所に印をつけましたっ」
「私から見ると……幼稚園児の落書きにしか見えないのだが」
「酷いですロズさん!」

どうにも殴り書きのような、本当にひどい絵だったからだ。
隣で足を組んでいるロズは嘲笑している。しかし、その反対側に座っていたリエナは微笑み返した。

「よく出来たじゃない。地図を描いてくれたのね」
「はいっ!!」
「…君は本当に子供を手なづけるのが上手いね」
「僕は子供じゃありません!」

むっとするクローヴェルに対し、リエナは考えがちに話す。

「でも、これをみるからに被害にあった家は全部バラバラの場所にあるわね。
 誘拐するの難しそうじゃない?この町に詳しい人じゃないと……学校へ着いてないって事は
 つまり攫われたのは朝から昼までの間って事でしょ?」
「被害に遭った3人は特に友達でもなかったみたいですし……」
「単に子供さえ誘拐できればいいって事なのかな?無差別誘拐?」

「こんな町で目的もないのにたた闇雲に子供を誘拐したとは思えないなぁ」

と、3人の先で立ったままレオは頭を掻いた。

「どういう意味だい?」
「目的も元々の標的もきっといる。だ・が。その標的に中々近づけられなくて子供たちをあえて誘拐しているか、
 標的を傷つけたくて誘拐しているか、すぐに犯人がばれないように、関係のない子供を攫ったか………」
「さ、流石ですレオ刑事!!」

クローヴェルの瞳は本当に子供の様にキラキラと輝いている。

「だが、不思議だ」

両手をあわせて口に当てながら恐らくさまざまな事柄を思案しているレオ。
まさか朝方娘に叩き起こされてパンケーキを作った人間とは思えないほどだ。
リエナが首をかしげた。

「不思議?」
「いや…まぁ、子供をさらって得られる犯人の目的はなんだと思ってね。つまり動機だ」
「うーん……う~ん、わかりません!」
「君本当にあのインターポールから来たの?」
「うっ……」
「もう、お父さんも彼を苛めないでよ。せっかくここまで来てくれたのに」
「リエナさぁ~ん……」
「よしよしおいてクローヴェル。私が貴方を守るわ」
「リエナ、君彼に少し優しすぎないかな?あぁ、そうかお子様だから仕方がないのか」
「君たち?遊びたいのなら家に帰りなさい」
『はーい…』

そこで、レオが再び主導権を握った。

「家がバラバラの場所にあるという事は、3人は学校へ行くまでの道、つまり通学路で攫われたはず。
 リエナ、その中で人目につかない場所はあるかな。いくら田舎って言っても通学路でしかも昼時に
 変な人間がいたら噂はたつからね」
「成程!つまり犯人は子供たちがみても怪しがられない人間って事ですね!」
「加えて、子供たちを連れて行かせる口実も上手く出来る場所だと嬉しいのだけど」
「僕のひらめきは無視ですか!」

リエナはすぐに笑って頷いた。

「それなら、とてもいい場所を知ってるわ」

リエナが立ちあがるとそれに続いて二人も立ち上がり歩き始めた。

「どわっ!?」

しかし直後、クローヴェルが本日五度目の雪道転倒事故を引き起こした。

「ちょ、大丈夫!?」
「はぁー……」
「置いておきなさい、リエナ」

レオとロズベルトは無視して先に歩きだすが、リエナはクローヴェルの元へ戻った。

「どうしてこんな雪の町にそんな新品の革靴で来たの…」
「初めての任務だっ たので……それに」
「うん?」
「やっぱり警官ってカッコいいイメージが……誰からも頼られますし」
「…っ」
「笑わないでください…」
「ふふ、ごめんね。ほら、大丈夫?」

彼女が差し出した手に、彼のアメジスト色の瞳が眩しそうに霞んだ。

「まさに雪のように舞い下りた天使のようですよ。何度、助けられたことでしょう」
「そうね、これで5度目よ」
「その度に手を差し出してくれるなんて、きっとあそこにいる眼鏡の人たちなら呆れて助けてくれませんよ、あはは………」
「って、ちょっと。貴方の手とても冷たいじゃないっ。本当に大丈夫?」

ふと、背中で会話を聞いていたロズベルトがちらりと彼を見た。
最初にロズベルトが彼と握手を交わした時に思っていたことを、彼女が代弁してくれていたからだ。

「貴方こそ、その服装では寒くありませんか?」

しかしクローヴェルはクローヴェルで、今迄思っていた事を彼女に質問していた。
周りは皆コートや厚着をしているのに、彼女の服装はと言えば、白いシャツに黒いショートパンツのみだ。
あまりにも冬にふさわしい服装ではない。

「あぁ、気にしないで。この服が好きなのよ、それに動きやすいし」
「…本当にそれだけの理由で?」

クローヴェルは見るからに不思議そうな表情だ。

「どうしてそう思うの?」
「いえ、貴方が昨日と今日にレオ刑事に頼んだ料理が全て熱いものでしたので。
 もしかしたら本当は寒いのは苦手なのに、何か特別な理由でその恰好をしているのかなと思いまして」
「素晴らしい観察力ね!流石警官だわ。どう?掛け持ちで記者にならない?」

キラキラと目を輝かせて話すリエナに、クローヴェルも瞳を輝かせて言った。

「ご一緒出来るなら喜ん「リエナ、捜査をしに来たのだろう?」

またいつの間にか、二人の間にロズベルトがすかさず入り込んでいた。
彼は二人が繋いでいた手を離し、リエナの手を引いた。

「ちょっとロズベルトさん空気読んで下さい」
「君にだけは言われたくない言葉だよ」
「捜査をしにって、毎回毎回置いてけぼりにするのはどこの誰よ」
「それは…だが」

と、ロズベルトはクローヴェルに聞かれないように彼女の耳元で囁いた。

「あの男は怪しすぎる…」
「じゃあ彼が子供たちを攫えると思うの?たった今雪で滑った彼が?」
「………確かに」
「ドジで悪かったですねドジで」
「地獄耳とは趣味が悪い」
「貴方が言うのロズ」
「えっと、聞きそびれましたがお二人は一体どのようなご関係なのですか?」
「あぁ、私も言い忘れていたよ。私とリエナは 婚約者 なんだ。悪かったね」
「こここここここ、婚約者!?え、え!?」
「ロズ……クローヴェルも驚き過ぎよ」
「君たち!!」
『は~い』

レオにとってはわんぱくな子供が二人増えたという重荷だけが圧し掛かった。




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